2012年09月04日

【足立社長列伝】 第15回 しまや出版 小早川真樹社長

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▼ 一般には聞き慣れない『同人誌専門』の印刷会社とは

足立区宮城。まわりを荒川と隅田川に囲まれた地域であり、自分のような足立区の内陸部で育った人間からすれば、同じ区内というよりも隣接する北区、荒川区に近い雰囲気を持つ街という印象がある。

同人誌専門の印刷会社であるしまや出版は、昭和43年創業という同人誌業界では老舗に当たる印刷会社である。
「前身は十条で営んでいたしまや商店という文房具屋です。そのお店の中に印刷機を入れましてね。もともと自動車メーカーで働いていて機械好きだった義父が、文房具屋だけでは楽しくないと印刷機を導入したのが始まりなんです」。

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フレンドリーな事務所入り口。

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小早川社長は、本連載の第1回で紹介した復興支援チャリティポロシャツを着ての登場。A-Friendsの発起人の一人でもある。

まず、同人誌という存在を知らない方のために説明すると、小早川社長いわく「簡単に言えば、個人の方々が趣味でマンガや小説を描いているものですね。現在はその同人誌作品を販売できるイベントがたくさんあります。有名な同人誌即売会としてコミックマーケット(通称コミケ)があります」。

コミックマーケット(コミケ)と言えばその世界になじみのない人でも一度は耳にしたことがあるかもしれない。毎年8月と12月に有明の東京ビッグサイトで開催される同人誌即売会である。今夏も3万5千人もの作家さんの同人誌を購入するために、来場者は3日間で56万人を動員したという日本最大のイベントである。
「コミケは世界的に見ても大きいイベントでNewsにもなりますが、同人誌即売会は30人くらいから200人くらいの作家さんが集まった小規模なイベントも頻繁に行われているんです。サンシャインシティ、東京流通センター、大田区産業プラザPIO、都立産業貿易センターなど、毎週どこかで同人誌即売会が開催されています」。

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驚くことに小早川社長がしまや出版に入るまで同人誌とはまったく縁のない生活を送ってきたという。
「正直同人誌≠フど≠フ字も知りませんでした。当初は独特のルールというか、文化というか、価値観みたいなものを理解するのに苦労しました。ただマンガ自体には、小さいころから触れてきましたし、ガンダムとかキャプテン翼とかには熱狂してきましたから、違いと言えばそれが商業誌なのか、個人が趣味で描かれているものなのか?という部分だと割り切って。同人誌というと個人が好きなことを作品に出来るわけで、オリジナルのマンガもあれば二次創作もある、まじめなものもあればアダルトなものもある、電車やカクテルを擬人化してみたり、全国のお寺回りの旅行記があったりと。多種多様でニッチな部分が同人誌の面白いところですね」。

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事務所内の風景。スタッフの9割がプライベートでも同人誌を描いたりして同人誌に関わっているという。


▼ 初心者にもわかりやすい会社を目指して

「僕は5年前、35歳の時にこの世界に入りました。そのときは、印刷ってまったく知らなかったんですよ。当然オフセット印刷って何?原稿って何?入稿ってどうするの?って。そして当時僕が感じたのは、同人誌の世界の独特な閉塞感。同人誌つくるなら知っていて当然でしょ、という雰囲気があったんです。知らないことは回りの人に教えてもらうみたいな文化というか、暗黙の了解というか。友人知人に同人誌に長けた人がいればいいけど、個人で始めると大変だなぁと感じました。そこで僕が掲げたのが、『初めての方でもわかりやすく入稿できる会社』にしようという考え方でした。既存の社員に浸透させるのは苦労をしましたけど、今では全社員が理解をして臨んでくれています。『はじての方“にも”優しい同人誌専門印刷会社』これが今のしまや出版のポリシーであり、キャッチコピーです。この業界も新陳代謝はあります。若い層、興味を持ったばかりの層など、裾野を広げていくのが僕らの役割の一つだとも感じています」。

「やはり以前に比べて初心者のお客様は多くなりましたね。僕は何冊作ればいいのでしょうか?どんな紙に描けばいいのでしょうか?なんて質問も実際に多くあります。でも今まではそれが気軽に聴けなかったんですからね」。
実際、しまや出版のお客さんの中には「よそに言ったら冷たくあしらわれたのだけれど、しまや出版さんは丁寧に説明してくれた」と受付で泣いた方もいるという。

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こちらが受付スペース。明るくイラストなども多数あり、普通の印刷会社とは一線を画す。


同人誌専門の印刷会社とは非常に珍しい業種に聞こえるが実際はどうなのだろうか。
「印刷業界全体の中で見ると同人誌印刷業界は小さな業界ですね。ただ意外かもしれませんが、同人誌専門の印刷会社は全国に数十社あります。最近では、Webサイトに同人誌印刷します≠ニ書いただけで同人誌印刷会社というところもありますので、メインの業務なのかサブ業務なのかは会社によってまちまちです。印刷業界是全体でみれば斜陽産業なわけで、同人誌印刷業界は潤っているように見えるのでしょうね。ですから、これからはより差別化が必要になると思ってます。うちはコミケの初期から参加している業界の老舗印刷会社になります。30年以上この業界にいるわけで、うちはノウハウでもクオリティでもサービスでも、新興企業には負けてられません」。

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「僕は経営者として会社としてこうあるべきだ≠ニいうことを示して、マニアックな部分はスタッフに聞いています」。
経営者として自身のスタンスをしっかりと把握した小早川社長の言葉。


しまや出版は「受部門付、製版部門、印刷部門、製本部門」の4つのセクションからなる。そしてジョブローテーション制度により、現在の担当以外の業務を習得しているスタッフも多数いる。
「まず製版ではお客さんから入稿があったデータをチェックします。ページ数は足りているか、ノンブル(ページ数表記)は抜けていないか、きちんと印刷できる原稿かなのかをチェックします。当然不備があれば連絡します。外から見ている方に言わせると同人誌毎日見れていいね≠チてことらしいですが、仕事なのでストーリーなんて当然見れないですよね(笑)。チェックが終わったら製版作業です。今はほとんどデジタル化されていますので、簡単に言ってしまえば、PCからすぐに製版ができます。昔はフィルムとかで写植屋さんが文字を切り貼りしてましたけど、技術革新はすさまじいものがありますね。その後は印刷。通常のオフセット印刷機の他に、最近では刷版のいらないオンデマンドというデジタル印刷機も注目されていて、うちでも人気の印刷商品になってきています。そして印刷の後は、製本作業。一般的な印刷会社・製本会社は、印刷だけ、製本だけと言った分業が多いですが、うちではスピードとクオリティの為に、社内一貫体制にこだわっています」。

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入稿相談、刷版から印刷、製本、同人誌即売会会場への納品まで一括で対応してくれます。

同人誌は本ですから当然重いし、かさばる。女性の方などは移動が大変な時もある。その為、しまや出版では同人誌を販売する会場まで送り届けてくれるうれしいサービスを実施している。
「本は重いし、案外かさばります。段ボール数箱なんて電車に乗って持っていけないですよ。だからうちはイベント会場まで納品します。原稿と代金を納めていただいたら、イベント当日、現場に本が届いているんです」。

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▼ 老舗同人誌印刷会社が目指す新ビジネスの形

同人誌専門の印刷会社として長い歴史を持つしまや出版は、自社の強みを活かした新規事業の開拓にも意欲的だ。
「今は同人誌の世界で頑張っていますが、今後は幅を広げたいと思ってまいます。中高年の方など小説や俳句、それに自分史なんかを書いている方もいますよね。そういった方たちに向けたサービスを拡充したいですね。たとえば自費出版。自費出版をする方には高齢の方も多いのですが、出版した書籍を陳列する場がない。そういう方に専門のサイトを提供して、そこに自費出版本を陳列してもらう。しまや出版に印刷を依頼してくれたら、その販売サイトに全部陳列しますよと。少し前に高額な自費出版が問題になりましたが、『しまや出版であれば安価に自費出版ができる』というようにしたいんです。うちは十冊から印刷をいたしますので、大量に作った本を何十箱も家に置いておく必要も無くなりますし」。

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「今は同人誌を作らない方はうちのサイトを見てくれませんから、高齢の方や物書きさんが見てくれるサイトを作ろうかなと。小説を自費出版したいなら、そこを見ればある程度わかるような。今やってることと基本は一緒だけど見せ方の違いです。入稿の仕方も文筆業であればはイラレやフォトショもいらないワードだけ。Web上のフォームに入力してもらったものを本にできればいいなと。行く末は実際に喋ってもらった内容がそのまま本になるとか。また、文章が苦手な方のために、ライターを派遣することも考えてます。とにかく、なにか本を作って伝えたい!そういう想いの受け皿としてある程度いろんなことできればいいかなと」。

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「気軽にわからないことはわからないと言ってください。はじめての方“にも”やさしい印刷会社を目指していますので、わからないことはどんどん質問していただいて構いませんので」。


株式会社 しまや出版
東京都足立区宮城2-10-12
TEL:03-5959-4320
http://www.shimaya.net
  
   
    
取材・文 松山 貴之 [PROFILE] / 写真撮影 古川 章   

   
   
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posted by ジャンク派 at 19:33 | Comment(0) | 【足立社長列伝】