2011年12月05日

【足立社長列伝】 第8回 有限会社三幸 小沢頼孝社長 <前編>

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▼ アクリル専門の加工工場を訪ねて

東京メトロ千代田線の最果ての駅、北綾瀬。

ここから徒歩数分の住宅地に居をかまえる三幸(みゆき)
アクリル専門の加工メーカーである。

取材当日はあいにくの曇り空。

現地に到着すると入り口の前にはなんと我々の名前を記したウェルカムボードが。
中に通されると小沢頼孝社長をはじめとするスタッフの方々と記念写真をパチリ。

聞けば三幸では初めてのお客さんが来たときには、
スタッフを集めて記念写真を撮って皆に紹介することになっているという。


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看板がなければ普通に住宅と見間違えてしまいそうな三幸の本社。
ガラス張りの部屋はミーティングスペースになっている。
我々がインタビューしたのもこちら。



「うちに初めて来た人にはすべて同じことをやってます。
 お客さんは誰もドキドキして来るじゃない。
 そして、自分らもどんなお客さんが来るかドキドキしてる。

 君たちもそうだと思うけど、お客さんの所行ってもみんなPCに向かってるじゃない。
 でも、その人たちも気になってるんだよね。どのタイミングで挨拶していいのかわからないし。
 そうやってずるずるになるよりはみんなで集まって挨拶した方がいいからね」。

確かに、会社員の経験があれば誰もがわかるであろうあの外部のお客さんとの微妙な距離感。
それを上手く解消するにはこういったストレートな手法が最も効果的なのかもしれない。


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ブルーのボタンダウンシャツを颯爽と着こなす小沢社長。


アクリルという言葉はよく耳にするものの、
その定義をキチンと把握している人は少ないのではないだろうか。

筆者もこれまではなんとなくプラスチックのような軽くてそれなりに丈夫な素材
くらいのイメージしかなかったわけで。

「アクリルはプラスチックの一部です。
 ペットボトル、塩化ビニール、硬質ビニールとかいろいろあるけど、その中の素材のひとつ。
 うちは創業が1970年で、アクリル加工の歴史も40〜50年。
 プラスチックは100年くらいあるけど。

 アクリル自体は透明度がなかなか出せない。
 今まで透明度を出すために苦労して、それをごまかすために染料と顔料をまぜて
 マーブル調、ようするに大理石調とかにしてたの。
 壁材なんかでよく使われる。

 ところが技術が発展してだんだん透明度が出るようになって、
 うちだと今では95%くらい透明度を出してる。

 透明度が増すことによって弊害が出るのは堅さ。
 ダイヤモンドがそうなんだけど、透明度が高いと堅くなるの。
 堅くなればなるほど加工しづらくなるからね。

 うちは穴開けたり削ったり曲げたりする仕事だから。
 透明度を100まで上げると堅すぎちゃう。落としただけで割れちゃうとか」。

オイルショックまでのアクリルは100%が石油製品だった。
今では技術が進んで石油製品ではないアクリルも開発されてるという。

ちなみにグーグルで「アクリル」と入れて検索すると
三幸のWebサイトはだいたい5番目以内に表示される。

「アクリル」という広く使われている一般名詞にも関わらずこの表示順位はかなりのもの。

聞けば95年には自社のサイトを開設して、
小沢社長のブログも10年近く継続しているという。
まさに継続は力なりを実証している。

ちなみに、具体的な名前は三幸のポリシーとして公開していないが(その理由は後編で説明)、
今をときめく国民的アイドルグループ、パリコレに出展もしている有名アパレルブランドなど、
三幸は数々のビッグネームのグッズを手がけている。

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こちらが一番の売れ筋商品パスケース。自社オリジナルもOEM製品も豊富にラインナップしている。

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オリジナルブランド和風花≠フ下駄ストラップ。
これは手染めの手ぬぐいを中に挟み込んだという手の込んだ逸品。



三幸のパスケースのフォルムはiPhone3をイメージしているという。
手に馴染みやすいようにラウンド型で、サイズもiPhoneより一回りほど小さくして寸法取りしている。

そして、三幸のオリジナルブランド和風花≠ヘその名のとおり和のテイストがモチーフになっている。
上の下駄ストラップは江戸前の手染めの手ぬぐいを入れているのがこだわりだという。

「下駄にしたのはいつまでも自分の足で歩けるように、という願いを込めて。
 神社仏閣に草履の根付けがあるのはそういう意味なの」。


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熱狂的なライオンズファンのスタッフが生み出した西武ライオンズ公認のコンパクトミラー。


「大切なのは、自分で考え自分で作って自分で販売するということ。
 うちには西武ライオンズが大好きな女の子がいるけど、
 野球の好きな人、テニスの好きな人、自転車の好きな人、
 やっぱり好きな人間がものづくりをしなかったら伝わらないと思う。
 『社長にやれと命令されて』とか言ってる社員がいたらそれは伝わらない」。

その熱狂的なライオンズファンという女性スタッフの日記がこちら
サイトの説明によると
「アクリル娘の細腕奮闘記。埼玉西武ライオンズの大ファン。
 現場で働く女の子が日々の出来事公開しています」
とのことなのでぜひチェックしてみてほしい。


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アクリル製のチェーン。
小沢社長によればこれはプラスチックの板をチェーンの形に切り抜いて作っている高価なものだという。
主にネックレスなどのアクセサリーに使用するとか。長さは20mほど。


三幸では社内のデザイナーだけでなく、外部の学生とも積極的にコネクションを築いている。

「外部の人間を入れると、うちを取り巻くデザイナーはだいたい40〜50人くらいかな。
 文化服装学院とか東京藝大とか拓殖大学のデザイン科の学生さんと交流を持ってて。
 革とか彫金とか服飾の学校はあるけど、プラスチックの学校はないからね。
 アクリルを扱いたい子への支援としてうちを利用してもらうとか、
 その子たちと一緒にコラボもできるし」。

そういった学生とはデザインフェスタをはじめとする展示会で繋がることが多いという。
また、インターンとして来た学生を終了後にそのままアルバイトとして雇ったりもしているので、
アクリル加工の業界に飛び込んでみたい学生は積極的にアプローチを取ってみるべし。


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高校生のバイトくんたち。記念にパチリ。

後編予告:お客さんの夢を大切にしたいが故に小沢社長が守り続けるポリシーとは?
   
       
      
松山 貴之 [PROFILE]
   
   
   
posted by ジャンク派 at 17:17 | Comment(0) | 【足立社長列伝】

2011年12月12日

【足立社長列伝】 第8回 有限会社三幸 小沢頼孝社長 <後編>

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▼ 裏方に徹する小沢社長の哲学

数多くの大手企業のアクリル作品を手がけてきた三幸。

いわゆるOEMとしての仕事だが、
三幸はクライアントの名前を公表しないことをポリシーとしている。
その理由は以前に舞浜の世界的テーマパークと仕事をしたことがきっかけだという。


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「2007年に舞浜の仕事をしたときですね。
 そのデザインコンペがあって、
 最終的にうちの製品はフロリダの本部で承認をもらって販売されることになりまして。
 そこで1年間ストラップを作ってたんですよ。

 ものすごい数で、作った数は36万個くらいまでは覚えてたんですけど。
 間に企画会社が入ってまして、そこから
 『あそこの仕事は世界レベルの厳しさだから、
 それを手がけたならその技術力はどこに行っても通用する。
 足立区でやってるんだったら手を挙げて宣伝してもいいんじゃないですか』って言われて。
 確かにあそこの品質管理はものすごい厳しいんですよ、会社のトイレも検査されるくらい。
 
 作ったものが何十万個もあればひとつくらいは不良品があるんじゃないかと思って、
 契約が切れる1ヶ月くらい前に担当に確認したんです。
 そしたらうちの製品は1個も不良品がなかった」。

まさに足立区のものづくりの技術が世界に通用することを示した瞬間である。
それだけの技術力がこんな(と言っては失礼だが!)足立区の住宅地にある工場から生まれているとは、
近所を行き交う人のうち、どれくらいの割合の人が知っているだろうか。

「あそこの客は90%がリピーターなんです。
 そこで子どもたちがお年玉やお小遣いを貯めてお土産を買う。
 もしかすると買ってくれている人たちは、あそこで売っているグッズは
 白雪姫や7人の小人が作ってくれたという思いで買ってくれているんじゃないかと。
 だから、自分らが手を挙げて『足立区でうちが作ってますよ』とやっちゃいけない。

 うちの技術ではなく、あそこの人たちが素晴らしい努力をしているから売れているわけであって、
 それを勘違いしちゃいけないんじゃないかと。
 うちがやってることも素晴らしいんだろうけど、
 それを前面に立って販売している人の努力があって売れているわけだから。

 例えばうちの名前でやっているブランドなら
 『和風花』と名前を出してかまわない。
 でもOEMでやっているならそれは違うんじゃないのかなと。
 だから自分たちも切磋琢磨して自社ブランドで売れるようにしよう、
 というのが和風花カノセカイといったオリジナルのブランド。
 パリコレの商品も手がけてるけど、それは名前を出さないのが自分たちのポリシー」。

自分たちの名を表に出すことなく、縁の下の力持ちに徹してものづくりに打ち込む姿勢。
その高い技術力とぶれない信念こそが下町の製造業を支えているんだなと実感した瞬間であった。


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こちらは輪ゴムを飛ばす、いわば割りばしてっぽうのアクリル版。

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アヒルの姿をしたパスケース。ファンシーと言うよりも、このキッチュなノリが最高。


▼ ものづくりには時間と情熱をかけること

「大切なのは、デザインの力を信じてものづくりをすること。
 まず、線引きをしなきゃいけないのは機能優先かデザイン優先かということ。

 若い学生に伝えたいのは、最初はとんがった部分で突き抜けないと
 世の中に『私たちはこういう活動やってます』ということが伝わらないよ、と。
 そして、お金を稼ぐことと両立はしないよ、と。

 一番最初のスタートは『これもできる、あれもできる』という器用な顔を持ってないと。
 例えばAという商品に関してはデザイン性がすべて、
 もうひとつのBは量販でしっかりと稼いでいけるような。

 打ち合わせでも、お客さんの顔を見て『これができます、こっちもできます』と押してみて、
 相手が反応した方で一気に押していくっていう。それがビジネス。

 初めから『なんでもできます』と言ってしまっては差別化できないからダメ。
 それと、ものづくりには時間と情熱をかけること。
 今は女の子の方がそういう傾向が強いね。
 それで、製品ができあがった後に出てくるのが営業部長。

 最初から営業サイドで話すると、これいくらでできるの? ロットは? 
 もう少し安くならないの?とか、ぜんぜん商品にならない。
 みなで考えたものを形にするところからはじめないと」。


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カラフルなアクリル板の数々。


三幸のもとには企業以外にも、
オリジナルのアクセサリーを作りたいという個人からの連絡も多いという。

「幼稚園の先生から、フジロックで自分の作品を出したいけど作ってくれますか?という
 問い合わせもあったし、関西方面から来る人もいます。

 アクリルの工場はたくさんあるけど、うちみたいにWebで工場を公開してるところはほとんど無い。
 技術を盗まれるから。

 うちが中を公開してるのは、自分らの仕事はものづくりだけじゃなくて、
 アクリルのすばらしさを世界中の人に知ってもらいたいという思いがあるから」。

ちなみにロット数は1個からOKとのこと。気になる方は今すぐ三幸のサイトからGO!

もっとアクリルを世に広めたいという小沢社長。アクリルの魅力とは何かをストレートに伺ってみた。

「やっぱり色と輝きだろうね。

 うちの技術は溶けた樹脂を型に流し込んで作ったり、
 機械でカシャンカシャンと切り抜くんじゃなくて、
 刃物とかレーザーでひとつひとつ切り出して作るのが基本。

 1個から3〜10万個くらいまでかな対応するのは」。


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三幸の社内風景。若手スタッフが多く働いている。

  
▼ これからの日本の製造業の進路について

そして、三幸は第2回に紹介した安心堂の丸山社長が会長を務める足立区の異業種交流会
「未来クラブ」にも所属している。

「丸山会長は昔の町工場の親方みたいな人で。
 あれだけ多くの人をまとめるには人格がないと無理。
 未来クラブの会員が増加を続けてるのは、その結果じゃないのかなと。
 人柄ってのは最終的にどんな人でも、どんな国籍の人でも通じるからね。

 加入した理由は、やっぱりものづくりの人たちとの連携を取りたいから。
 よその工場はどんな思いで仕事してるのかなと。
 100社あれば100人の社長の思いがあることがわかりました。

 日本の製造業はものすごい細分化されていて、
 例えば材料屋、板金屋、磨き屋、仕上げ屋、メッキ屋なんかがいるけど、
 その中の突出した部分が海外に出てものづくりができなくなってしまっている。
 そういった連携を取りながら、これまで日本の零細企業はやってきたんだけど。
 どうやったらそれを食い止められるか。

 製造業は連携をとりながらものづくりしていくのか、
 大手企業のように自社完結型になるか。その2つしかない。
 うちはそれを両立させたいと考えてるの」。

足立区から新しい製造業のモデルが生まれるのも、そう遠くない先の話かもしれない。


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ナイスポーズの小沢社長。

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もう1枚。

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さらにもう1枚。


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デロンギのコーヒーメーカーをはじめ、社内にはいろんなものが置いてありました。


有限会社三幸(みゆき)
東京都足立区東和5-12-24
http://www.ann.hi-ho.ne.jp/m-co/
       
      
    
松山 貴之 [PROFILE]
   
   
   
posted by ジャンク派 at 14:45 | Comment(0) | 【足立社長列伝】