2011年09月19日

【足立社長列伝】 第2回 株式会安心堂 丸山寛治社長 <後編>

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▼ 手軽に付加価値を生み出せる“なんでもくん”の技術

丸山社長は今後の日本において「好況は二度とない」と言い切る。

「なぜなら人口がどんどん減っていくから。景気がよくなって儲かると言うことはありえない。
 ただ、観光のように地域的、部分的に盛り上がることはある。
 でも、人ってけっこう飽きちゃうからね。同じ場所に何度も行かない。
 限られた地域での経済がものを言うんだろうなと。
 大量に作って大量に販売するなんてことはなくなる。
 真逆の少量多品種で本物志向が進むでしょう」。


さらに社長は続ける。

「今の時代、身の回りに“ないものはない”んです。
 誰々が持ってるから自分も買おうとか、そういったことではなく、
 “これは他人が持ってない自分だけのもの”とか
 “あそこでわざわざ買ってきたもの”が欲しい。
 ガラス工房って北海道とか箱根とか日本全国にあるんですけど、
 切子で名前を入れると付加価値が生まれて売れるんです」。


例えばホームセンターに売っている大きめの砂利に“なんでもくん”で印刷をすれば、
それは単なる石ではない付加価値のある石となる。

「その辺に転がっている石でも“ツキを呼ぶ福石”と印刷すれば簡単に投げ捨てられないでしょ。
 うちには地域の学校の生徒さんが会社訪問に来るんですけど、
 私はいつも付加価値についてお札を例に出して説明するんです。
 『お札はなんの印刷もなければ鼻もかめない紙切れだけど、
 ここに印刷をすると付加価値が生まれてお金になる』と」。


話を聞いたところ、安心堂には筆者の母校である足立区立第八中学校の生徒も訪問するとのこと。
足立区は「開かれた学校づくり協議会」を立ち上げて地域との交流を促進するなど、
その辺の施策には意欲的である。

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足立区立第八中学校(通称「八中」)の生徒による感謝の手紙。
自分が彼らの先輩であることが申し訳なくなるほど、どの生徒も字が上手くしっかりした内容だ。
「八中は教育方針が素晴らしい」と、丸山社長も絶賛。



▼ 高齢化の時代に伸びるのは葬祭市場

「もうバブルが弾けてこれから成長するマーケットは葬祭市場しかないです。
 でもそうなると葬儀屋さんは伸びるけど、競争過多の時代になるから」。


そこで丸山社長は線香に注目して、個人毎にカスタマイズできる“焚経香(http://www.anshindou.net/)”をリリースした。
戒名、家名を印刷するだけでその一家だけのオリジナル線香となる。

「線香は最近使わない人もいるけど、まだまだニーズはあるはず。
 この般若心経なんて珍しいでしょ」。


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こちらが安心堂オリジナルの“焚経香”。
戒名、家名、般若心経など好きな文字を印刷して個々のニーズに応えられる商品である。


過去の成功にとらわれず時代の動向を察知して、自社の技術を活かした製品を開発する。
齢70を超える丸山社長であるが、その柔軟な発想力には驚かされる。

しかし、安心堂のこれまでの道は順風満帆ではなかった。

「以前、電話のダイヤルに文字を印刷する技術を開発したんですよ。
 光を浴びて固まるUVインクを使って、当時としては画期的な技術でした。
 が、某大手企業がその技術で特許を取ってしまって。
 そんな経験は1回だけじゃないんです」。


その他、ボタン印刷の技術を持つ安心堂は
スポーツブランドのウィルソンやフランスのマリ・クレールなどを
大口のクライアントとしていたが、阪神大震災を境にパッタリと受注が止まってしまった。

「地震でインフラがパッタリと止まってしまって。
 そうなるとマーケットの流行自体が変わってしまうんです。
 ボタンの付いた服がすべてファスナーやベルクロに切り替わって。
 インフラが回復すれば仕事も回復すると思ったけどそうは行きませんでした」。


数々の苦難を乗り越えた過去のエピソードも丸山社長は終始笑顔で語ってくれた。

「仕事が好きで楽しんでるから休んだこともないし病気もしません。
 人を喜ばせることが楽しみ。昔は麻雀を2日徹夜でやっても苦にならなかった(笑)」。



▼ 社長の技術を頼って人が集まる

日々更新される丸山社長のブログにはその日の出来事が詳細に記されている。
中でも目を引くのが、毎日のように安心堂の技術を求めてやってくる来客の多さだ。

事実、この取材中にもわずか2時間ほどの間に集金から近所のお客さんまで、
いろいろな人がやってきた。

「ブログネタは尽きませんよ。印刷についての悩みは人によって千差万別ですからね。
 だからこそパッド印刷は永遠に不滅なんです。
 どこでにでもなんにでも印刷できる。
 できない人ができるようになる姿を見ると嬉しくなりますね。
 自分の技術に自信がなければ開発なんてできません。
 あやふやなものは世間に出せない。評判ばかり気になってしまいますから」。


足立区に生まれた丸山社長は地元に対する思いも人一倍だ。
スカイツリー、浅草の観光ついでに足立区にも寄ってもらえるようにするのが目標だという。

つくばエクスプレスを使えば浅草から足立区まで10分。
知られざる町工場の多い足立区ならではの大人の社会科見学なども企画できそうだ。
いかがですか、近藤やよい区長。

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カルーセル麻紀(若い人は知らないと思うのでググってみて)のためにヒョウ柄を印刷した綿棒。
某TV局のディレクターに頼まれた逸品。


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メジャーをヒントに開発されたストラップ。
フックにIDカードや鍵などを繋げて使用する。“なんでもくん”はカラー印刷も可能。


また、安心堂では通年で人材を募集している。
応募資格は“弊社の開発「なんでもくん」に共感を持った方”のみという、極めてシンプルなもの。

「過去にはリストラされそうだから手に職をつけて独立しようと思って来たサラリーマンもいます。
 そういった人が技術を身につけて“なんでもくん”を買って独立する。
 そして事業で成功すればうちに仕事を振ってくれる」。


単純な労働力を求めるのではなく、
マーケットを広げるための布石を着々と打つという長期的な戦略を丸山社長は描いている。
ここに“パッド印刷の伝道師”の神髄を見た気がした。

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浅草好きの丸山社長。洋画3本が55円で見られた時代から浅草に通っている筋金入り。

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安心堂の近くには味のある団地が数多く建っている。
   
   
株式会社安心堂
東京都足立区江北3-21-6
http://www.nandemokun.net/
  
   
   
松山 貴之 [PROFILE]
   
   
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posted by ジャンク派 at 09:11 | Comment(0) | 【足立社長列伝】
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